作:愚者皇さん
「ふっ…!!」
拓ノ心の一撃を身を翻して避ける。
スガンッ!!という音と共に地面が両断される。
「ほぅ、拙者の一撃を避けるとは…」
「面白い奴だな…お前。ガルド、ギラム…喰らい尽くせ!!」
愚者皇が持つ二つの牙が拓ノ心を喰らいつくさんと襲い掛かる。
「はぁ…!!」
拓ノ心は大太刀を軽々と振り回して2つの牙を受け流す。
「なんのこれしk…ぐあっ!!」
受け流した筈の拓ノ心の身体に袈裟斬りに傷が刻まれ、鮮血が吹き出る。
「3撃目は見えない牙…。決して防ぐ事は不可能だ…」
「ぐぅ…さすがでござるな……」
ややふらつきながら大太刀を構える。
「だが、咄嗟に身を引いて致命傷を免れたか…」
「やはり、気づいていたでござるか…」
「さて、その剣はただの剣じゃないだろ…。その剣からただならぬ気配を強く感じるからな…」
「だが…まだまだでござるな…」
「なんだと……!!」
見ると、自分の身体にも斬撃が刻まれていた。
「ふっ…最初の一撃か」
「外の世界にはまだ拙者よりも強い者がいるとは…。世界は広いでござるな」
「面白い…、お前みたいな奴とは小細工無しでやらないとな…!!」
二人同時に仕掛ける。
ぶつかり合う銀閃、互いの身体に刻まれる斬撃の傷跡。
斬り、刺し、打ち、捌き、流し、切り結ぶ!!
2人の切り結びはまるで舞うかの如く、見るものを魅せられるものがあった。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
二つの影が重なり、3つの刃が絡みあう。ギチギチと金属のこすれる音が響き渡る。
「なかなか…やるでござるな……」
「俺も…運がいいな……。こうも殺りがいのある奴等と戦えるなんてな…」
ガキッという音を立てて、二つの影は離れる。
互いの身体はズタズタに斬り傷だらけ、それでも互いの戦意は衰える事を知らない。
「流石は…拙者をここまで追い詰めるとは……。ならば、奥義を使わせてもらうでござる」
そう呟いて、拓ノ心は大太刀を振りかぶるように構える。
その瞬間、周囲の空気が張り詰めたように鋭くなる…。
次の瞬間、拓ノ心の姿が霧の様に消えた。
「!!」
「…修羅心影流表奥義」
背後に拓ノ心の声…。
「阿修羅斬舞…」
ズバババババシュッ
刹那、愚者皇の全身に17もの斬撃が刻まれ、血しぶきが盛大に吹き上がる。
「ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
がくりとその場に膝を崩す。
「ぐっ…あぁぁぁ……」
「無駄でござるよ…」
ちゃきんと音を立てて、大太刀を鞘に収める。
「例え致命傷を免れたとしても、斬鉄剣の一撃を受けて立ち上がった者は…」
「ふ……ふふふ……ふはは………はははは……」
拓ノ心の言葉を遮るかの如く、愚者皇の笑い声が響き渡る。
彼が振り向くと、緩慢な動きで立ち上がっていくのが見える。
「ば…馬鹿な……」
「くくく……、これほどの傷を負ったのは初めてだな……くく…」
ぼたぼたと傷口から血を流しながらも笑みを浮かべるその様は、まさに異様な光景だった。
「あ〜…久々に血が流れたら、割りと思考が冷静になってきたな……」
だらりと腕を垂らした体勢で拓ノ心の方を見る。
「じゃあ…、俺もちょっとばかし剣技を見せないといけないとな…」
ぐおっと風が巻き起こる。
「まずい…」
拓ノ心は直感的に危険を感じた…。
愚者皇の目が獲物を狙う猛禽類のそれに見えたのと同時に、前倒姿勢で間合いを詰めてくる。
「しまっ…!!」
拓ノ心が斬鉄剣の柄に手をかけるが既に遅し。
「ハウリング・レイド…!!」
狼の如き咆哮と共に、3つの牙で斬りつけられた拓ノ心の身体が宙を舞った。
「ちっ…、血を流しすぎたな…」
再びその場に膝を崩す。剣を杖代わりに身体を支えるのが精一杯だった。
「ぐっ…流石に効いたでござるよ…」
地面に叩きつけられた拓ノ心もふらつきながら立ち上がる。しかし彼も満身創痍で、最早戦える状態ではなかった。
「その身体であれだけの威力…。無傷であれば、拙者の命は絶たれていたでござろうな…」
「あ〜…殺すならさっさと殺せばいいさ…」
「いや…、拙者も立つのがやっとでござる…」
「そうか……お前、俺を狙う刺客じゃないな……」
「だからさっきも言ったように…流れの者でござるよ……」
「物好きが……、このままだとアイツに説教されそうだな……」
苦笑しながら呟く。
「いつつ…。並の人間だったら死んでるぞ、あんなの喰らえば…」
「愚者殿…一つ聞いてもよろしいでござるか?」
「なんだ…?」
「愚者殿から邪なる力を感じるのだが…どうみても魔物には……」
「あぁ…、俺の中には魔神がいる…。お前が感じたのはそれの気配だろうな…」
「なるほど…」
そういった後、近くの木に寄りかかるようにして座り込んだ。
「少し疲れたな…」
「そうだな…」
愚者皇はそう言って、地面に倒れこむ。
「愚者殿…」
「あ?」
「酒でも飲まぬでござるか…?」
「貰う…」
そう言うと、拓ノ心はやや変わった形の酒瓶を投げてくる。受け取った後、酒瓶の蓋をあけて中身を一気にあおる。
「ぐほっ、げほっ!!…なんだこれは」
「ヤマト酒という米でできた酒でござるよ」
「…こんなの、よく飲めるな」
「ははは…、一気に飲むからでござるよ」
「くく…そうだな……」
2人の笑い声が夜の街外れに響き渡った。