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第35話:魔の牙、破邪の太刀 後編

作:愚者皇さん


-From 33-
「ふっ…!!」

拓ノ心の一撃を身を翻して避ける。
スガンッ!!という音と共に地面が両断される。

「ほぅ、拙者の一撃を避けるとは…」
「面白い奴だな…お前。ガルド、ギラム…喰らい尽くせ!!」

愚者皇が持つ二つの牙が拓ノ心を喰らいつくさんと襲い掛かる。

「はぁ…!!」

拓ノ心は大太刀を軽々と振り回して2つの牙を受け流す。

「なんのこれしk…ぐあっ!!」

受け流した筈の拓ノ心の身体に袈裟斬りに傷が刻まれ、鮮血が吹き出る。

「3撃目は見えない牙…。決して防ぐ事は不可能だ…」
「ぐぅ…さすがでござるな……」

ややふらつきながら大太刀を構える。

「だが、咄嗟に身を引いて致命傷を免れたか…」
「やはり、気づいていたでござるか…」
「さて、その剣はただの剣じゃないだろ…。その剣からただならぬ気配を強く感じるからな…」
「だが…まだまだでござるな…」
「なんだと……!!」

見ると、自分の身体にも斬撃が刻まれていた。

「ふっ…最初の一撃か」
「外の世界にはまだ拙者よりも強い者がいるとは…。世界は広いでござるな」
「面白い…、お前みたいな奴とは小細工無しでやらないとな…!!」

二人同時に仕掛ける。
ぶつかり合う銀閃、互いの身体に刻まれる斬撃の傷跡。
斬り、刺し、打ち、捌き、流し、切り結ぶ!!

2人の切り結びはまるで舞うかの如く、見るものを魅せられるものがあった。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

二つの影が重なり、3つの刃が絡みあう。ギチギチと金属のこすれる音が響き渡る。

「なかなか…やるでござるな……」
「俺も…運がいいな……。こうも殺りがいのある奴等と戦えるなんてな…」

ガキッという音を立てて、二つの影は離れる。
互いの身体はズタズタに斬り傷だらけ、それでも互いの戦意は衰える事を知らない。

「流石は…拙者をここまで追い詰めるとは……。ならば、奥義を使わせてもらうでござる」

そう呟いて、拓ノ心は大太刀を振りかぶるように構える。
その瞬間、周囲の空気が張り詰めたように鋭くなる…。
次の瞬間、拓ノ心の姿が霧の様に消えた。

「!!」
「…修羅心影流表奥義」

背後に拓ノ心の声…。

「阿修羅斬舞…」

ズバババババシュッ

刹那、愚者皇の全身に17もの斬撃が刻まれ、血しぶきが盛大に吹き上がる。

「ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

がくりとその場に膝を崩す。

「ぐっ…あぁぁぁ……」
「無駄でござるよ…」

ちゃきんと音を立てて、大太刀を鞘に収める。

「例え致命傷を免れたとしても、斬鉄剣の一撃を受けて立ち上がった者は…」
「ふ……ふふふ……ふはは………はははは……」

拓ノ心の言葉を遮るかの如く、愚者皇の笑い声が響き渡る。
彼が振り向くと、緩慢な動きで立ち上がっていくのが見える。

「ば…馬鹿な……」
「くくく……、これほどの傷を負ったのは初めてだな……くく…」

ぼたぼたと傷口から血を流しながらも笑みを浮かべるその様は、まさに異様な光景だった。

「あ〜…久々に血が流れたら、割りと思考が冷静になってきたな……」

だらりと腕を垂らした体勢で拓ノ心の方を見る。

「じゃあ…、俺もちょっとばかし剣技を見せないといけないとな…」

ぐおっと風が巻き起こる。

「まずい…」

拓ノ心は直感的に危険を感じた…。
愚者皇の目が獲物を狙う猛禽類のそれに見えたのと同時に、前倒姿勢で間合いを詰めてくる。

「しまっ…!!」

拓ノ心が斬鉄剣の柄に手をかけるが既に遅し。

「ハウリング・レイド…!!」

狼の如き咆哮と共に、3つの牙で斬りつけられた拓ノ心の身体が宙を舞った。

「ちっ…、血を流しすぎたな…」

再びその場に膝を崩す。剣を杖代わりに身体を支えるのが精一杯だった。

「ぐっ…流石に効いたでござるよ…」

地面に叩きつけられた拓ノ心もふらつきながら立ち上がる。しかし彼も満身創痍で、最早戦える状態ではなかった。

「その身体であれだけの威力…。無傷であれば、拙者の命は絶たれていたでござろうな…」
「あ〜…殺すならさっさと殺せばいいさ…」
「いや…、拙者も立つのがやっとでござる…」
「そうか……お前、俺を狙う刺客じゃないな……」
「だからさっきも言ったように…流れの者でござるよ……」
「物好きが……、このままだとアイツに説教されそうだな……」

苦笑しながら呟く。

「いつつ…。並の人間だったら死んでるぞ、あんなの喰らえば…」
「愚者殿…一つ聞いてもよろしいでござるか?」
「なんだ…?」
「愚者殿から邪なる力を感じるのだが…どうみても魔物には……」
「あぁ…、俺の中には魔神がいる…。お前が感じたのはそれの気配だろうな…」
「なるほど…」

そういった後、近くの木に寄りかかるようにして座り込んだ。

「少し疲れたな…」
「そうだな…」

愚者皇はそう言って、地面に倒れこむ。

「愚者殿…」
「あ?」
「酒でも飲まぬでござるか…?」
「貰う…」

そう言うと、拓ノ心はやや変わった形の酒瓶を投げてくる。受け取った後、酒瓶の蓋をあけて中身を一気にあおる。

「ぐほっ、げほっ!!…なんだこれは」
「ヤマト酒という米でできた酒でござるよ」
「…こんなの、よく飲めるな」
「ははは…、一気に飲むからでござるよ」
「くく…そうだな……」

2人の笑い声が夜の街外れに響き渡った。

-To 生贄の羊 上-
-To 黄昏の森-

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