作:愚者皇さん
次の日、愚者皇はアリシアに連れられて街を散歩する事になった。
「ねぇねぇ愚者さ〜ん、いっぱいお店がありますよ〜」
「…ふぅ、元気なものだなお前は」
色んな店が立ち並ぶ市場を見てはしゃぐアリシアの後を歩きながら、愚者皇は呟く。
「もう、愚者さんは見慣れてるかもしれないでしょうけど…。私にとっては初めてなんですよ」
「一度死んでる人間にとって見慣れてるもへったくれもないが…」
「うわ〜、見てくださいよ〜これ綺麗ですよ〜」
「………………」
(まったく話を聞いてないな…こいつ)
どうやら、アクセサリー屋の前でじっと見つめていた。
見てみると、様々な宝石をあしらった装飾品等が並べられている。
「いらっしゃい、そこのお嬢さんの恋人か何かかい?」
「えっ…!?えっと…その……」
「ただの連れだ……ぐっ!?」
答えると同時に左足に痛みが走る。ちらっと目線だけを移すと、アリシアの足が思い切り踏んでいた。彼女に目線を移すと、恨めしそうな目でこちらを見ている。
「どうしたんだ…?」
「愚者さんて…、凄く鈍感なんですね」
そういって、立ち去ってしまった。
「?」
「おいおい、乙女心に鈍感だと恋人に嫌われますよ」
「いや…だから恋人ではないと……」
「これなんかどうですか?」
そういって差し出してきたのは、淡い緑の宝石が付いた指輪だった。よくみると、2つで一組となっている。
「ん?なんだこれは…」
「これは精霊石をはめ込んだ指輪ですよ。これをもった者同士はどこにいても意思が通じると言われてます」
「ふぅん…」
「どうですか?これを渡せばきっと機嫌を直してくれますよ」
「まぁ…、あのまま不機嫌にさせておくのも悪いしな…。貰おうか」
「まいど、金30000になります」
「高いな…」
「まぁ、上質な精霊石を使ってますからね〜」
見てみると、石から出ている魔力は一般的に出回っている代物と比べて確かに多い。
「ちなみにこれはさっきのお嬢さんが欲しがってたものなんですよ」
「そうなのか…?」
「えぇ、ただ値段を聞いて諦め気味でしたが」
そういって商人は苦笑する。
「30000だったな…」
愚者皇はそう言って、懐から小さな皮袋を取り出して商人に手渡す。商人は皮袋を開いて、中に入っている宝石を見て驚嘆した。
「ほほぅ、これは…」
「生憎硬貨は持ち合わせてない。それで足りないか…?」
「いえいえ、これだけあれば…毎度あり!!」
「それじゃあ、貰っていくぞ…」
そうして、精霊石の指輪を持って店を後にした。
アリシアは市場から少し離れた橋の所にいた。
「こんな所にいたのか…」
「……………」
むすっとしたまま、何も答えない。
「ほれ…」
彼はさきほど買った精霊石の指輪の片割れをアリシアに差し出す。
「えっ…?」
それをみて、彼女は目を丸くする。
「まぁ、なんだ…欲しがってたみたいだしな…」
「え!?あっと…その……」
「いらないのか?いらないなら返してくるが…」
「あ〜、いりますいります!!」
そういってひったくる様に指輪を取る。
「ありがとうございます」
「ふぅ…現金な奴だな〜」
「むぅ、何かいいました?」
「いや別に…」
しれっと言ってのける愚者皇をみて、アリシアがふふっと笑った。
「愚者さんって、実は優しいんですね」
「あ?」
「本当は、指輪なんて買えなくても良かったんですよ〜」
「そうなのか…?」
「そうですよ〜」
「…やれやれ、今更返せって言っても無理だろ」
「だって、せっかく貰ったんですから。返すのはかえって失礼ですよ〜…あっとと」
「お、おい…!!」
転びそうになったアリシアの腕を咄嗟に右手で掴み、そのまま引っ張る。彼女はそのまま引っ張られるままに引き寄せられる。
「大丈夫か…?」
「大丈夫ですけど……」
「なんだ…?」
「人……見てますよ」
見回すと、確かに道行く人がこちらを見ている。
まぁ、真昼間から若い男女が抱き合う?のを見ればそれは確かに人の目を引くだろう。
「…あぁ、すまない」
「うぅ…愚者さんって恥かしい事を平気でやりますよね〜。乙女心には鈍感な癖に…」
「だから何のことだ…?」
「いいです…、鈍感な人には教えませんよ〜」
そういって橋を走って渡っていく。
「やれやれ………ん?」
不意に、周囲からから不穏な気配を感じる。
(新手の刺客か……?)
見回してみるが、辺りにはまちゆく人しか見当たらない。
「愚者さ〜ん、早くしないと置いていきますよ〜」
「あぁ…すぐに行く」
そう言って再び辺りを見回すが、先ほどの気配は感じられなかった。
(なんだ……今のは)
腑に落ちないまま、彼はその場を後にした。
その日の夜…
彼は再び夜の街を一人歩いていく。しばらく通りを歩いていき、人気の無い街外れの広場までやってきた。
「そろそろ…でてきてもいいんじゃないのか…?」
「気づいていたでござるか…」
すっと後ろの物陰から一人の男がでてくる。
「新手の刺客か…?それにしては変わった服をきてるな…」
男は愚者皇からすれば見慣れない格好をしており、腰には大きな刀の鞘をさしている。無論、ヤマトにしか存在しない刀の事も愚者皇は知らない。
「拙者、流浪人の身である拓ノ心と申す者でござる…。そなたの名を聞かせてもらおうか…」
「愚者皇…。ただ、復讐にのみ生きる存在だ…」
「愚者皇殿か…、そなたから邪なる気配を感じたのでな…」
「へぇ…奴等の刺客にしちゃ、なかなか変わった奴じゃないか…」
そう呟いたあと、トゥレイドファングを召喚する。
「それで…、俺に何か様があったんじゃないのか…?」
「そなたの様な魔に属する存在を生かしておくわけにはいかぬのでな…」
すらりと、男は腰の鞘から刀を抜き放つ。
「なるほど…、手加減は無用ってわけだな…」
「そなたに恨みは無いが、我が破邪の剣で断ち切ってくれよう!!」
「上等!!」
愚者皇が叫ぶと同時に、拓ノ心が切りかかってきた。