作:愚者皇さん
その昔、朽ち果てたお城に悪魔がいました…。
悪魔は自身の持つ強大な力を持って人々から略奪し、恐怖に陥れていました…。
そんなある日、悪魔はとある国に住む姫君と出会いました。
悪魔はその姫君をいたく気に入り、自らのものにせんとその国へと襲い掛かりました…。
国は滅び、悪魔は姫君を自らの城へと連れて帰りました…。
悪魔は様々な手をもって、彼女の心を自分に向けさせようとしましたがどれも駄目でした…。
業を煮やした悪魔は、姫君にとある呪いをかけてしまいました。
その呪いとは、彼女をこの城から永遠に出られなくする呪い…
「な…なんだ…」
不意に何も無い空間から詩が聞こえる…。
その詩は、昔誰かから聞いた事のある物語の詩…。
「…何故、この詩が?」
そう考えていた時だった。突然、静寂に包まれていただけの廃城が瘴気で満たされる。直後、竜骨兵(ドラゴントゥースウォーリア)が4体、目の前に現れて襲い掛かってくる。
「…ちっ、何だというんだ」
突然の襲撃に一瞬、思考が麻痺する…。が、身体は既に対処し始めている。トゥレイドファングを取り出して片方を投擲、同時に群れに向かって駆け出す。
振り下ろされる刃を投擲した牙で軌道を逸らて一番近い奴に体当たりを叩き込み、体勢を崩した所をもう片方の牙を持って一撃で切り伏せる。さらに返す刃でもう一体…、距離を取って同時に投擲した牙を呼び戻して今度は両方を投擲。だが、これはあくまでフェイク…。
投擲された刃を手にした武器で弾き、こちらへと向かってくる。刃がこちらに届くまで2秒弱…だが、2秒あれば死の刃を振り下ろせる。
「影よ…刃となりて敵を貫け!! 影槍(シャドウ・ランス)」
直後、足元の影から突き出された無数の黒い槍が、竜骨兵を完膚なきまでに穿ち砕く。
「突然、魔物が出てくるとは…この城もいつの間にか魔物の巣窟と化したって訳か…まさか」
この城にまつわる一振りの魔剣の話。
その昔、どこぞの吟遊詩人がこの城に眠る悪魔を討ち倒した騎士魔剣の話を詩にしたというのを聞いたのを思い出す。
かつて、この国の城には一体の悪魔が眠っていたと言う。その悪魔は一人の騎士によって討たれ、剣に封じ込められたと言われている。その後、その騎士の名を取った国が生まれたと言われている。
「つまり…闇の連中に滅ぼされた影響で、魔剣の封印も解けたってわけか…」
もしこの話が本当だとすれば、この城一帯の異変も納得がいく。
魔剣に封じ込められた悪魔が、再び眠りから覚めようとしているのだろう…。
「確か…魔剣のあると言われる場所は地下庭園だったはずだ……なっ!?」
不意に頭上から膨大な殺気と力の気配…。
反射的に大きく後ろに跳躍、同時に轟音を立てて天井が爆発し、何かが降りてくる。
爆風で撒き散らされる破片をトゥレイドファングで払いながら、降りてきた気配を見やる。そこには黒い巨躯と翼を持った一体の悪魔が立っていた。
「いきなりデカい獲物が登場とはな…」
「我ガ城ニヤッテクルトハ…命知ラズナ愚カ者ガ…」
「はっ、たかだか図体だけがデカいアークデーモン如きが…よく吠えるな」
「愚カナ人間ヨ…貴様ヲ最初ニ喰ラッテクレル!!」
黒い悪魔は、こちらに向けて腕を振り下ろす。が、大きく後ろに跳んでこれを避ける。振り下ろされた腕は石造りの床を完膚なきまでに砕き、さらに飛び散った破片が壁を破壊する。
「悪いが、貴様如きに構ってる時間はないんでな…。影よ、獣ととなりて敵を噛み砕け!! 影獣刃(シャドウ・ビースト)」
叫ぶと同時に、影から黒い獣が現れてヴォルトゥルスを噛み砕かんと牙を突き立て…た様に見えた。影の獣が牙をつきたてる瞬間、腹部より現れた“口”に噛み砕かれ、食われていた。
「…こいつは厄介だな」
実体の無い影の獣を物理的に潰す事はできない。腹部より現れた口が喰らっているのは獣ではなく、獣を構成する魔力を喰らっていたのである。
「フフフ…、我ニ魔法ハ無意味ダ」
「魔喰いの呪霊結界…。そうか、“魔術殺し”のヴォルトゥルスか…」
「ホゥ…ソノ名ヲ知ッテイタカ」
「かつて、幾多もの魔術を極めた一人の魔術師が更なる力を求める為に魔神と契約し、その身に宿した。が、失敗して身を滅ぼした。その成れの果て…糧なる贄(ゴート)か」
糧なる贄とは、その身に宿した魔神の力に飲まれた者の成れの果て。
魔神の力を支配できず、飲まれた者は大抵の場合は魂もろとも滅ぶ。が、中には魂の滅びを免れるものもいる。しかし、知性や理性は既に失われ、生前己が欲望の欲するままに突き動かされ…永遠の時を生きる亡者。
「まさか、この城に安置されている魔剣に封じ込められていた化け物がお前だったとはな…。しかし、考えたらあの物語を歌った吟遊詩人もいい加減なものだな…こいつらにあんな事をする知性なんざ無いんだからよ」
「“魔術殺し”ト言ワレタ我ノ力ヲ見セテヤロウ…。旋風ヨ…死ヲ運ブ刃トナリテ敵ヲ討テ!! 死旋風(ディストーム)」
直後、巻き上がる突風と共に無数の風の刃が飛び交い、石造りの壁や天井を切り裂きながら襲い掛かってくる。
「ちっ、風よ…災いより我を守る盾となれ!! 守護旋風(ガーディアム・ウィンド)」
すぐさま編み上げた風の障壁で風の刃を退ける…が、かつて魔術を極めた者の実力は半端ではなかった。こちらが編み上げた風の障壁もビキビキと悲鳴を上げるように砕けていく。
「障壁が…もたねぇ……ぐわぁっ!!」
障壁を打ち砕かれ、防ぎきれなかった刃に切りつけられながら、巻き上がる突風によって床と天井を交互に叩きつけられる。
「ぐっ…思ったよりもキツイな……」
「マダ終ワリデハナイゾ!!」
さらに追い討ちをかけてくるように頭上から踏みつけてくる。
その衝撃で先ほどの攻撃でひび割れていた床が踏み砕かれ、瓦礫と共に遥か下へと叩きつけられる。
痛みで全身の感覚が無い…。
呼吸がまともにできない…。
思考がまともに働かない…。
姫君が城から出られなくなって数年経ったある日…。
悪魔を倒し、姫君を助ける為に一人の騎士がこの城にやってきました…。
騎士は悪魔に叩きのめされながらも、何度も立ち上がって戦いを挑みました。
「また…あの詩だ……ん?」
目の前に映るは、台座に突き立てられた白銀色に輝く一振りの巨剣。
「あの剣が…そうか」
指一本動かすのも辛かったが、現在ある魔力で自然治癒能力を増加させ、半ば無理矢理に身体を起こす。
上から殺気と共に膨大な魔力の気配、咄嗟に台座に向けて飛び込むようにして転がる。直後、轟音を立てて巨大な火柱が上がる。
台座にたどり着くと同時に、剣の柄に手をかけて力を込める。剣は見た目の大きさよりも軽く、すんなりと台座から抜けた。
「これが…この城に眠る魔剣」
白銀に輝く巨剣は刀身に三つの首を持つ狼の模様が刻まれていた。
直後に収束する魔力の気配。巨大な火球がこちらにむけて飛んでくる。
「はぁ…!!」
火球に向けて巨剣を振り抜く。火球は綺麗に両断され、目の前で暴発する。
爆風に当てられながらも構わず駆ける。あるのは標的のみ、やるべきは標的を倒す事のみ。
「何ダト…!?」
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
右足を強く踏みしめ、白銀の巨剣を振り下ろす。
確かな手ごたえと共に黒い悪魔を両断する。
「バ…馬鹿ナ……コノ我ガ…」
「冥府への道案内はしてやる…。ただし、片道のみだがな」
「グオォォォォォォッ…!!」
ボロボロと崩れ落ちる化け物を見やりながら、そのまま意識が途切れていった…。
「おっ…やっと気がついたみたいだな」
「……レオンか?ここは…」
「あぁ、取り合えずここはメルド教国にあるゼノスって街だ。彼女に頼んでここまで運んでもらったんだよ」
「…………?」
「あぁ、話が呑み込めてないみたいだな…悪い。お前と嬢ちゃんがあんまりにも来ないもんだからな、俺達が探したんだよ。そしたら、荒野の真ん中で二人して倒れてるから驚いたぜ」
「荒野で倒れてた…?馬鹿な…」
信じられないといった様子でレオンを見る。だが、レオンの表情は偽りを語っている気配はなかった。
「見たらお前は訳の分からん馬鹿でかい剣持ったままズタボロで気絶してたしよ…。何があったんだ?」
「実はな…」
俺はレオンにこれまでの事を話した。
レオンは半信半疑で俺の話を聞いていたが、とりあえずは信じてくれた。
「って事は何だ?過去の自分に関する記憶を得るためにその城に行ったって言うのか?しかし、あの辺りは荒野で城なんざねぇぞ」
「だが、あの剣は現にここにある…」
そう言って壁に立てかけてある白銀の巨剣を見やる。刀身は見合う鞘が無かったのか、布でぐるぐるに巻かれている。
「ん〜まぁ…何だ、嬢ちゃんも記憶が曖昧みたいだしな…何とも言い様がないがな…」
「それで、何でメルドに戻って来れたんだ?あそこからだとかなりかかるはずだぞ…」
「そいつは、姉さん達の転移魔法で運んでもらったんだよ。まぁ、術者が知ってる街しか転移できないって話だったからな、直接戻るって事はできなかったんだが…。とりあえずそう遠い距離じゃなさそうだぜ」
「そうか…」
恐らく、レオンが言ってる姉さんとはセレンのことだろう…。しかし、光属性の魔法に転移魔術があるのを知っているが、あれはかなり高位の術で、扱えるものもそう多くない。とすれば、彼女は術者としてもかなりのものだろう…。
「とりあえず、俺は城ちゃんの様子を見てくる。今日はゆっくり休んだ方がいい」
そう言ってレオンは部屋を後にした。