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第75話:叶わぬ想い、埋もれし幻想 上

作:愚者皇さん


-From 74-

セレンより、ヴィエナから南に2日程歩いた場所に街があるとの話があり、一行は次の日出立した。
道中、魔物や野盗の類に遭う事無く、その日の夜は野営を取る事にした。
一時といえる安らぎの時ともいる食事も終わり、夜も更けてきた頃…。

「……………」

ヴァレリアは一人、火の番をしながら考え事をしていた。

(記憶が戻ってきている…自分が無くした名前を思い出したという事は…)

彼はかつてオルハ達に奪われた魔神、セプテリオスの事を思い出した。
ファンファンに一度殺された後、禁呪によって埋め込まれた最初の魔神…。
そいつが埋め込まれた時に感じたのは…

力を奪った者への怒り…
全ての者への憎しみ…
再び復活する為の執念…。

それはまるで、鏡の自分を見ているようだった…。
だからこそかもしれない…。
俺は…自分の記憶と引き換えにそいつと契約を結んだ…。
だが、自分の記憶が戻りつつあるという事は、セプテリオスとの契約が破棄された事を意味する…。
4魔神の中で最も強い力を持つセプテリオスを奪われた今の自分に、ファンファンはおろか…オルハすらも倒せないだろう。

(くそっ…、俺は…どうすればいい……!!)

「ヴァレリアさん…?」
「!!」

不意に声が聞こえたので振り向くと、アリシアが毛布をかけて隣に座ってくる。

「そのままだと、寒いですよ」
「寝なくていいのか…?」
「なんか…眠れなくて……。ヴァレリアさんは寝なくてもいいんですか…?」
「俺は別に寝なくても問題ない…。身体の作りが人とは違うからな…。それとなアリシア…」
「はい…?」
「いい加減、さん付けするのはやめろ」
「ぇ…?」
「いつまでもさん付けされっぱなしというのは、どうも他人行儀の様が気がしてな…」
「ん〜、さすがにヴァレリアっていうのは少し長いので…ヴァレリーって呼びますね」
「…ころころ呼び方を変えるなぁお前。まぁ、別に構わないが」
「そんな事はないです…くしっ」

アリシアが小さくクシャミをしながら身体を震わせている。
この辺りは大陸の北に位置するので、特に夜の気温が低く冷え込むのだ。

「ったくお前という奴は…」
「ふぇ…!?」

ヴァレリアはアリシアの身体を引き寄せ、自分にかけられていた毛布の半分を彼女にかける。

「この辺りは冷え込む。少しは自分の事を考えろ…」
「うぅ…いつも無茶ばかりしてる人に言われたくないですよ」
「……………」

この一言には流石に言い返す事ができず、黙っているしかできない。

(ふぅ…)

アリシアを横目で見ると、心なしか顔が赤い。

「まだ寒いのか…?」
「えっ!?そ、そんな事はないですよ…あはは」

取り繕う様な笑みを浮かべ、首を横に振りながら否定する。しかし、顔は赤いままだ。

「…なぁ、アリシア」
「何ですか?」
「明日、少し寄りたい所がある…。丁度、セレンが話していた街と同じ距離みたいだしな」
「どこですか…?」

アリシアが尋ねると、ヴァレリアは少し複雑な表情を浮かべながら呟いた。

「…俺の故郷だ」
「私も行きます」
「別に構わないが、何も無いぞ?」
「どういう所か見てみたいし…それに、駄目だって言ってもついて行きますから」
「…はぁ、じゃあ今日はさっさと寝るんだ。それに、良い子がこんな時間まで起きてたらいけないぞ」

そう言って、毛布を彼女に全部かける。

「むぅ、子ども扱いしないでください」
「分かった分かった、だから早く寝ろ」
「うぅ…おやすみなさい」
「おやすみ…」

アリシアが眠った後、夜が明けるまで一人で火の番をしていた。




次の日…

「…というわけで、先に行って貰えないか?」
「おいおい、どこに行くつもりなんだ!?しかも、嬢ちゃんまで一緒に行くって…」
「まぁ、いいではないでござるか。人には色々と事情があるのでござるよ」
「しかしよぉ…」

拓ノ心がレオンをなだめる様に答えるが、レオンは複雑な表情を浮かべながら呟く。

「分かりました…。ですが、街への道は分かるのですか?」
「あぁ、その辺はどうにかなる」
「ったく、お前は言い出したら聞かない奴だからな…。いいか、絶対に嬢ちゃんを危険な目に遭わせる事はするなよ」
「じゃあ、向こうで会おう」
「行ってきます」

ヴァレリアとアリシアの二人は彼等と別れ、先に出立する事となった。
しばらく街道を歩いていたが、そこから街道を外れて荒地を歩いていく。
かつてはこの辺りも自然で溢れていたであろうが草木一つ見当たらず、そして、荒地には魔物達が徘徊してる事が多く、滅多に人が通る事は無い。
それから1日程歩き続けていくと、廃墟と化した街に着いた。
建物は半ば崩れ果て、美しかったであろう町並みはもはや見る影も無かった。

「ここが…ヴァレリーの故郷?」
「………………」
「ちょ、ちょっと待ってよ〜」

アリシアの言葉に答える事無く、黙々と廃墟と化した街を歩いていく。
さらに歩いていくと、城門にたどり着いた。城門は何か大きな物をぶつけられたかの様に粉々に吹き飛ばされていた。

「ここは、アラニア王国の首都アラン…邪神教団に滅ぼされた国の一つ。そして…俺の故郷だった場所だ」
「…この城に何かあるの?」
「ここにくれば…、俺の記憶が全て戻る…そんな気がしてな」

そう言って、城門を潜り抜ける。
城内は戦闘の後が色濃く残っていた。
白骨と化した兵士や騎士達の死体、無残に散らばっている壊れた武器、抉られた様に欠けた城壁や地面…。それだけ戦闘の凄まじさが伺える。
白骨死体が纏っていた鎧には、黒い翼を模した紋章があしらわれていた。
ヴァレリアは立ち止まり、じっとその光景を眺めていた。アリシアは、その後ろから隠れるようにして見ている。

「みんな………すまない」
「ぇ…?」
「なんでもない…」

そう言って、ヴァレリアは城内へと入っていく。
城内は外の荒れ果てた光景とは裏腹に、傷一つない綺麗な状態だった。
長い通路を通っていくと、広間にたどり着く。広間には重ねた2振りの剣を咥えた獅子の国旗が掲げられていた。

「うわぁ…、結構綺麗に残ってますね〜。そう思いませんか…あれ?」

辺りを見回すと、誰かが奥の通路に入っていくのを見える。しかし、後姿がちらっと見えただけで誰なのかは判別できない。

「誰だろう…?」

アリシアはその人影を追うべく、その通路へと入っていった。




「…どこいったんだろう」

その頃、アリシアは先ほどの人影を探すべく、城内を歩き回っていた。
城の中はかなり広く、どこをどう歩いたのか検討がつかない。
何度目かの角を曲がり、いくつもの扉が並ぶ通路へとやってきた。
右側の方に扉が等間隔で並んでおり、通路はさらに右に曲がるように続いている。

「うぅ…、ここどこだろう。あっ…」

先ほどの人影は奥の通路をすっと入っていくのが見える。追いかける様にしてそこに向かうと、地下に続く下り螺旋階段が続いている。下の方は薄暗く、どこまで続いているのか見えない。アリシアは恐る恐る、ゆっくりとした歩みで歩いていく。
下までたどり着くと、ほとんど視界が利かないほどに暗かった。が、遠くで小さな白い点が見える。そちらに向かって歩いていくと、徐々に白い点は大きくなっていき、やがて視界がひらける。

「うわぁ…」

彼女が見たものは、辺り一面白い花で埋め尽くされた庭園だった。庭園は地下にあるにもかかわらず、光が差し込んでいる。
ふと、庭園にある花畑の上に青白いドレス姿の女性が座っているのが見える。
年は自分よりも少し上だろうか…。腰のあたりまである長い浅葱色の髪、雪のように白い肌…。まるで、生きた人形を見ている様な…そんな錯覚に陥る。

「……………」

女性はアリシアを見ると、にこっと微笑みながら手招きをする。それにつられる様に、彼女は近づいていった。

「どれほどぶりかしら…、この場所に人が来るなんて」
「あの…、ここに住んでるんですか?」
「そうね…、住んでる…といえば住んでるのかもしれないわね」

女性はどこか憂いを秘めた表情を浮かべながら呟いたが、すぐに表情を戻して言葉を続ける。

「ところで、ここへは一人で…?」
「いえ、ヴァレリーと一緒に来てるんです…。ってえっと…、旅の共をしている人でここに一緒に来たんですけど、途中ではぐれちゃって…んで、えっと…」
「ヴァレリー…」

一瞬、女性の表情が驚きのものに変わる。

「あ、あの…どうかしました?」
「いえ…昔、似たような名前の人がいたものですから…」
「そうだったんですか…」
「よかったら…、少し私の話に付き合ってもらえないかしら?なにぶん、久々に人と会ったものだから…」
「いいですよ。待っていればその内探してくれるでしょうし…」

そういって、アリシアは女性の隣に座る。

「何から話そうかしら…。そうね…一人の騎士と、その騎士に思いを寄せていた姫の話でもしましょうか」

彼女は懐かしむような口調で、話し始めた。

-To 夕闇計画第=序章=-

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