第7話:愚か者と少女…

作:愚者皇さん


-From 6-
脱国して数日後のとある森の中…。


「ったく、下位悪魔ぐらいじゃ束になっても俺は殺せないってのによ…」

最後に斬り捨てた悪魔の身体に剣を突き立て、舌打ちする様に呟く。
剣を鞘に収めた後、くらりと意識がぐらつき膝をつく…。

「どうやら…力を使いすぎたみたいだな……」

邪神王の禁呪で魔界の悪魔と融合させられた愚者皇の身体は並外れた生命力を持つが、元は人間。
寝る間もなく襲い掛かってきた刺客達を屠ってきた彼の身体は限界に達していた。

「まず…い……な………この……まま…だと……」

そのまま地面に倒れ込み、意識が途切れた。


「あっ気がつかれました?」

目が覚めると見知らぬ少女がこちらをのぞきこんでいた。

「…ここは?」
「ここは私の家です。貴方が森の中で倒れていたのを私が運んだんです…」
「そうか…ありがとう」

愚者皇はそういってベッドから起き上がろうとする。

「ダメですよ寝てなくちゃ」
「俺は追われてる身だ…。助けてもらったとはいえ、これ以上いれば迷惑がかかるからな…」
「それでも怪我人を放ってはおけません…!!」

そう言って、少女はむりやり彼を寝かせつけた。

「いいですか、今食事を持ってきますので。勝手に起き上がって出て行こうなんてしないでくださいよ」

そういって彼女は部屋を後にした。

「…ったく」

何をするでもなくぼんやりと天井を見つめる。しばらくすると、先ほどの少女がスープを持って部屋に入ってきた。

「どうぞ。粗末なものですけど」
「ありがたくいただこうか…」

愚者皇はスープを受け取る。

「ところで、ここには君以外に誰か住んでいるのか?」

尋ねると、少女は悲しそうな表情で首を横に振った。

「両親は悪魔に襲われて…」
「悪い…、聞いてはいけなかったな…」

恐らく、ファンファンの指揮下にある偵察部隊の悪魔だろう。奴等は自分の姿を見た奴等を例外なく殺していく。

「しかし、一人で住んでて大丈夫なのか?この辺りは危険だぞ」
「分かってます…。でも、私にはここが家族と過ごした大切な場所だから…」
「……………ん?」

不意に辺りから甲冑のガチャガチャという音が響き渡る。

(もう来たというのか…)
「な…何なんでしょうか?」

不安そうに呟く少女。

「いいか…何があってもここから出るな」
「え?」

言うが早く、愚者皇はベッドから起き上がると鎧とマントを纏い、愛用している双剣を手に持つ。

「スープの礼は言わせて貰う…ありがとうな」

そう言って外へと出る。
外へ出ると武装した悪魔が4体、自分と小屋を囲むようにして立っている。

「おいおい…、お前等には隠密行動というものは無いのか?」
「その必要は無いのだよ…反逆者よ」

ふと見ると、彼等の中心に紫の甲冑を着た人間が立っている。

「arudoか…」
「おやおや、かつての部下に対して冷たいね」

arudoと呼ばれた人間はこちらを見つめながら呟く。

「それで、隠密の必要が無いって言う事は、影からこそこそするのを諦めたか?」
「いや、もうすぐこの辺りは戦場になるのさ。ドルフ帝国の軍勢がこの辺りにいるんでね」
「ドルフ帝国…あぁ、あの新興国家か…それが?」
「彼等は我々と同盟を結びに来たんだが…、邪神王様はそのような事を望んでおられなくてね…」
「使者を殺したんだろ?お前達のやりそうな事だ…」
「おいおい、かつては君も同胞だったんだよ?…愚者皇」
「ほぅ…いつからそんな口がきけるようになったんだ?」
「君が脱国したから、後釜として私が司教の座に付いたんだよ…。そして、その最初の任務として君を殺すよう頼まれたのさ」
「そうか…どうりで……」


「どうりで…、手ごたえの無い雑魚連中ばかり出してきたわけだ…」


侮蔑を含んだ言葉を返す。

「き、貴様〜!!」
「まぁ、何にせよ…お前等に殺されてやる程、俺の命は軽くないんでね…」
「かかれ〜!!反逆者を八つ裂きにしろ〜!!」

arudoの号令と共に襲い掛かる悪魔。

「…ったく」

愚者皇は双剣を地面に突き立てる。

「お前等には素手で十分だな…」

そう呟くと同時に目の前を襲い掛かる悪魔に肉薄し、拳で殴りつける。
一瞬だけ彼の腕が禍々しく変化した様に見えた直後、ハンマーで殴りつけたような轟音と共に悪魔の一体が大きく吹き飛ばされ、後ろの木に叩きつけられる。
叩きつけられた悪魔は殴られた箇所が醜く抉られ、そこからぼだぼだと血を垂れ流している。

その後振り向きざまに左側にいた悪魔を殴りつけ、今度は地面にめり込ませる。残りの2体も同じ様に醜い塊と化した。

「さぁて…、後はお前だけだな…」

血に濡れた両手で、先ほど地面に突き立てた双剣を引き抜く。

「貴様如きに!!」

剣を抜き放ち、飛び掛ってくる。

「…遅いな」

交差する二つの影…。

煌く銀閃…。

空に舞う一つの腕…。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

arudoが吹き飛ばされた右腕を押さえながら叫び声を上げる。

「お前は司教の器じゃない…。悪い事は言わない、死にたくなければとっとと失せろ…」
「くそぉ…、覚えてろ…!!」

ありきたりな捨て台詞を吐いてarudoは消えて言った。

「さて…っとと」

戦闘が終わった後、再び意識がぐらりと揺らぐ。

「やばいな…これは……」

そうして再び意識が途切れた…。

-To 魔狼-

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