作:愚者皇さん
「愚者皇殿…、しっかりするでござる!!」
拓ノ心は、ベリアルの矢を受けてぴくりとも動かない愚者皇の元に駆け寄る。
全身は焼けただれている上に傷口からとめどなく血があふれ出ている。特に左腕は見るも無残な状態だった。覆っていた篭手が粉々に砕け散り、ところどころから骨が見え隠れしている。
彼の周囲を見回すと、地面に刀身の半ば溶けたトゥレイドファングが転がっていた。さらに見てみると、彼の前に大きな獣がいたと思われる足跡が残されていた。
まるで、主を守らんと自らの身を挺した如く…。
「無事……か……?」
愚者皇の声が聞こえてくる。
もはや意識は無いに等しく、言葉もうわ言の様に細々としたものだった。
「何故こんな馬鹿な事を…!!拙者を守る為に自らを犠牲にしようとしたのでござるか…!?」
「アリ……シア…は……?」
「そんな事よりも、自分の心配をなさるでござる…!!」
「いか…ないと……」
拓ノ心を押しのけようと歩き出すが、押しのけようとする彼の姿はあまりに弱々しかった…。そして、そのまま拓ノ心に倒れ掛かる。
「おい、大丈夫か…!!」
心配して様子を見に来たレオンが駆けつけてくる。そして、死人寸前の状態の愚者皇を見て愕然とした。
「何が…あったんだ」
「拙者を庇って、ケンプファーと名乗る者の攻撃を受けて…」
「……………!?」
それを聞いたレオンの顔がさらに青ざめる。
(ケンプファー…。アイツ、何のつもりだ…!!)
「と、とにかく…医者に見せねば…」
「無駄だよ…」
不意に二人の背後から声が聞こえる。振り向くと、骸骨の甲冑を纏った騎士がこちらに歩み寄っている。
「そいつの受けた傷は、人の手じゃ完治できないね…。そのまま死を迎えるだけだ…」
「何者でござるか…!!」
拓ノ心はとっさに腰の斬鉄剣に手を伸ばす。
「やめときな人間。お前がそれを抜く前に、肉片になってるぜ」
「なっ!!」
骸骨の騎士から漂う殺気にも似た気配を感じとり、太刀を抜くのを躊躇う。
「それでいい…」
「それで…、お前は何者なんだ?」
「俺の名はデスラグナロク…、ジェネラルテンペスト…そういえば分かるかもな?」
「!!」
ジェネラルテンペスト…。かつて、先の大戦で現れた魔神皇軍の騎士の一人。一撃で軽く200の敵を血祭りに上げるその様は暴風雨の如きといわれ、その名が付けられたとされる。
「なんで…大昔の奴がここに存在してるんだ…!?」
「俺達はお前等人間と違って、1000を超える時を生きてるからな。無論、そこにいる人修羅も俺達と同じだ…」
「人修羅…?愚者皇の事か?」
「やれやれ…、どんな奴かと来て見れば…無残なものだな。我等が主の魂を宿す魔人にしちゃ、腑抜けた奴だぜ」
「なっ!!貴様…それ以上愚者殿を侮辱する事はゆるさぬでござるよ…!!」
激怒した拓ノ心が骸骨の騎士に怒鳴りつける。
「わかってるって…。本調子じゃなかったんだろ?一部始終見させてもらったんだから見りゃ分かるぜ。じゃなきゃ、あの程度の奴に遅れを取る訳がねぇわな…」
さもおかしそうに答えるデスラグナロク。
「さてと…。それはさておき、俺がお前達の前にでてきたのはそいつに用があるんだよ…。ったく、予定が狂っちまったがしかたねぇか」
「何の事でござるか…?」
「まぁ、そいつに今死なれたら俺達が困るんでね…」
そういって、物言わぬ愚者皇を担ぎ上げる。
「さて、俺はこのままこいつを連れて俺達の城へ帰る。お前達はどうするんだ?
「拙者も同行させてもらうでござる」
「俺もついていくぜ。そいつの面倒見なきゃいけねぇしな」
「じゃあ決まりだな…」
そう呟いた後、なにやらぶつぶつと2・3言呟く。その直後、彼等の足元が白く輝きだし視界が真っ白になる。
気がつくと、彼等は闇に溶け込んだように暗い王の間にいた。
明かりといえば通路を表すかのごとく均等に並べられた蝋燭の光だけで、この部屋に見えるのは奥にある大きな玉座だけだった。
「おや、早かったですね…」
低い声と共に、ボロを纏った人影が現れる。
「まぁな、それよりもだ…」
どさりと愚者皇をボロの人影の前に降ろす。
「こ…これは人修羅ではないですか…デスラグナロク!!説明をしてもらいますよ!!」
「あ〜、そんな事は後だ。それよりもコイツの傷を治してくれ。それからでも説明はできるだろうが…」
「分かりました…。ここで言い争ってもなにも解決はしませんしね…」
そう呟くと、軽々と持ち上げた。
「お連れの方々には悪いと思いますが、今日の所はごゆっくりとお休みなさいませ…」
「つ〜わけだ、俺が部屋に案内するぜ」
状況の飲み込めてない二人を、骸骨の騎士は部屋に案内する。
「…何がどうなってるんだ?」
「拙者にもさっぱりでござる…」
二人はただただ、首をかしげるだけだった。