作:愚者皇さん
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
断末の叫びと共に、禍々しい装飾をした甲冑を着た人間が倒れ伏す。
「どうした…邪神王の部下ってのはこの程度なのか…?」
甲冑の兵士に囲まれた一人の剣士が侮蔑を込めて呟きながら、自らが持つ剣の刃に付いた血を払う。
「おのれ…邪神王様を裏切った反逆者め…!!」
「くくく…、三下共が吠える吠える…」
兵士に囲まれた剣士は、くつくつと笑みを浮かべる。
「なっ、何がおかしい…!!」
「裏切った…か。まぁ、裏切ったといえば裏切った事になるのかな。まぁ、そんな事はどうだっていいんだよ…」
「どうでもいいだと…!?」
甲冑の兵士の一人が激昂する。
「あぁ、そうさ…。俺が奴に仕える理由なんざ、はなっから無いんでね。だから、裏切ろうがどうしようが俺の勝手という事さ…」
「貴様…、死にかけていた所を助けてもらった恩を仇で返すつもりか!!」
「あぁ、俺を化け物にして生き長らせた事か…。まぁ、おかげ様で並の人間よりはしぶとくはなったが…、それとこれとは別だ」
ちゃきっ…と両手に持った双剣を構える。
「死にたい奴から来くるといいさ…」
「反逆者には死の制裁を…!!」
白刃をきらめかせて襲いかかる兵士達…。しかし、数刻後には物言わぬ屍となって地面に横たわっていた。
「貴様は、自分が何をしたのか分かっているのか…!?」
「……………」
最後に残った兵士が発狂気味に叫び散らす。愚者皇はその様子を無言で眺める。そしてそのまま、兵士の胸元に剣を突き立てる。
鈍い音を立てながら甲冑を砕いて身体に刃が突き刺さる。
「がっ…ごぶっ……」
ガクガクと身体を痙攣させ、口元からごぼごぼと血の泡を吹き出す。愚者皇はその様子を眺めながら呟く。
「分かるか…?奴に身体をいじられた時、お前が今感じてる痛みを俺は延々と受け続けたんだ…」
「がぶっ…ごぼっ……」
「俺はな…帰るべき場所を失い、人として生きる事すら許されない身体にされた…。この苦しみが、痛みが…貴様に分かるか!?」
「ぐぼっ……」
口から盛大に血の塊を吐き出して、彼の顔にかける。
「き、貴様…ごぼっ…の名前…ぐばっ…は……」
「名前か…名前なんざとうの昔に捨ててる…が、愚者皇……そういえば分かるだろ?」
「なっ…!!」
「良い子は眠りにつく時間だ…。さよなら」
ザシュッ
断末の声をあげる事無く、最後の兵士は頭部を身体から切り離された。
「…やれやれ、余計な血を浴びてしまったな」
顔に付いた血を服で脱ぐいながら呟くと、剣を鞘に収める。
「さてと…、奴が復活したという事は戦いの時が来るというわけか…」
そういって、彼は夜空を見上げる。
夜空はこれから迎えるであろう嵐の前の静けさの如く、澄み渡っていた。