第26話:内なる魔、外なる闇…

作:愚者皇さん


-From 25-
ちょうど、サン・ラテラノが滅びた日の夜…
愚者皇は、夜の首都を歩いていた…。
真夜中の首都は人の気配は無く、空は雲ひとつ無い…。まさに夜の散歩にうってつけだった。

「……………」

しかし夜の街を歩く彼は、心ここに在らずといった感じだった…

「おやおや、この様な場所で珍しい…」
「…ん?」

ふと見ると、そこには黒いボロを纏った人影がこちらを見ていた。

「よもや、この様な場所で人修羅と出会うとは…」

くぐもった声で、黒いボロの人影は話しかけてくる。

「人修羅…だと?」
「左様、人の身でありながら魂を闇に染めている者…それが人修羅。貴方様は、よほど強い力をお持ちの様ですな…ですが」
「……ですが何だ?」
「貴方様の心は脆く弱い…。それでは内なる魔に容易く魂を飲まれてしまいますな…」
「!!」

彼が怒りの表情を見せるが、それの構わず言葉を続ける。

「人修羅は、内なる魔と同調する事で力を得ます…。しかし、同調する度に自らの魂が闇に染まり、やがては自らも魔と成り果てる…」
「何が…、言いたい…」

怒気を含んだ言葉と共にトゥレイドファングを召喚する。

「おやおや、その様な物を出されては…。貴方様が力を振るえば、私共々この一帯が跡形も無く消え去ってしまいます故…」
「何が言いたいんだ…!!」

語気を強めて問い詰めると、ボロの人影はこういった。

「内なる魔は、貴方様が秘めたる欲望…。闇に染まるのは貴方様の心が弱い証拠でございます…」
「!!」

愚者皇はすぐさまボロの人影に飛びかかり、刃を首筋に当てる。

「そんな事は、分かっている……。お前は、そんな事を言う為に俺に話しかけたのか…?」
「まぁ、しがない世捨て人の戯言と取ってください。それと、その物騒な物を引いてもらえませんか?」
「……………」

無言のまま、愚者皇はトゥレイドファングを戻す。

「ありがとうございます…」
「それで…お前は何者だ…?」
「ただの世捨て人にございます…」
「名は…?」
「私めに名などございません…」
「それで…、俺にそんな事を言った理由はなんだ…?」
「いえ、ただの戯言にございます…」
「戯言…?ただのボロが何故俺が人で無い事を知っている…?そして、魔神の事も…」
「それは残念ながら申せません…。ですが、貴方様ならきっと内なる魔を我が物にできるはずです…」
「そうか…」

そういって、再びトゥレイドファングを召喚する。

「こそこそ隠れてないで、出てきたらどうだ…?気配は隠せても、殺気は隠せてないぞ…」

その一言の後に、バッと一斉に黒装束の人影が一斉に襲い掛かってくる。

「ひ、ヒィ!!」
「死にたくなければとっとと失せろ…!!」

吐き捨てるように叫んだ後に、黒装束の人影の一人に肉薄して斬りつける。

「ぐわぁっ!!」
「ぎやぁぁぁっ!!」

ザグリという音と共に、2人の黒装束が胴体から横に両断される。
しかし残り8体が、周囲を囲むように距離を取って武器を構えている。
武器は短剣。しかし、猛毒が塗られているのか、月夜に照らされて刀身が青紫にテラテラと輝く。

「なるほど…暗殺部隊か。という事はarudoの部下が指揮してるな…」

利き腕である左を前に、右を逆手で後ろ手にしてトゥレイドファングを構える。

「人の後を追いかけるのはあまりいい趣味じゃないな…」
「……………」

しかし、黒装束が答える気配は無い…。

「だんまり…か、まぁいいさ」

そういうと同時に黒装束の影が一斉に襲い掛かる。一つ一つが洗練された無駄の無い動き

「ふっ…!!」

ばっと上に跳躍する。それと紙一重の差で、八つの毒刃が先ほどいた場所で交差する。

「!!」

驚愕の表情を見せる黒装束の影。顔ははっきりと見えないが、恐らくそんな表情をしてるだろう。

「吠えろ…我が牙!!」

狼の遠吠えの如き振り音と共に、二つの白銀の牙が弧を描く様に振られる。直後、夜空に大量の断末の叫びと血の花が咲き乱れた。
まるで肉食獣に食いちぎりられたかの如く、深く抉られた斬撃の傷跡を刻まれて崩れ落ちる7つ黒装束の影。一人だけは、咄嗟に身を引いて避けていた。

「ほぅ…」
「……………」

感心するように呟く愚者皇。何も話さない黒装束の暗殺者。しかし、

「…さすがは、我が主の上司だっただけの事はありますね」

初めて口を開くと同時に、頭巾を引き剥がす。その下には端正な顔立ちの青年の顔があった。

「お初にお目にかかります…。arudo様の部下、闇と申します…」
「arudoの手下か…」
「主の命により、貴方の首を頂きに参りました…」
「ほぅ…、それで…?暗殺者は顔を見られない事が絶対と聞いてるが、わざわざそれを見せるのは理由があるのか…?」
「一度、貴方とは手合わせをしてみたいと思いましてね…」

すぅっと…短剣を持つ手を後ろ手に構える。

「今は何も考えずに剣を振り回したい気分だから…、手加減はできないぞ…」
「えぇ、その方が私としてもありがたいですね…」
「そうか…」

愚者皇もトゥレイドファングを構える。

「さて…」
「さぁ…」

「「今、この時を楽しもうか(みましょう)…!!」」

二つの影は同時に仕掛けた…。

-To 月夜の戦い…、新たなる侵略者-

RELAY.CGI V1.0r4