作:愚者皇さん
愚者皇が魔狼を倒したあと…
「どうやら終わってしまった様だな…」
「少しばかり遅かったみたいですね…」
「しかたあるまい…しかし」
廃墟と化した町を見回しながらarudoは呟く。
「これは…黒い月の魔神を解放したのか…」
「何ですか…?その黒い月の魔神というのは…」
「奴の中に眠っている魔神の1体だ…。元は最高司祭様が奴を手駒にする為に融合させた下級悪魔の1体だったんだが…」
「それが何故、魔神に…?」
「分からん…。流石に最高司祭様もその原因は分からないと申していた。だが、奴が宿している魔神はそれだけではないらしい…」
「だとすれば、我々の手には…」
「あんずるな…。奴が黒い月の魔神を解放したとなれば、しばらくはまともに動けまい…。これは私にとって好機だ…」
そういって、部下の闇を見つめる。
「闇よ…」
「分かっております…。必ずや反逆者の首を主の元へ…」
「期待しているぞ…」
「御意…」
そういって闇はすっと姿を消した…。
「さぁ、愚者皇よ…貴様の首がもうすぐ私の元へ…ククク……ハハハハッ」
「arudo様…」
「どうした…?」
部下の教団員がarudoの元にやってくる。
「最高司祭様から伝言です…。すぐに神殿へ戻ってくるようにと」
「分かった…ではすぐに向かおう…。闇から何か連絡があったら頼むぞ…」
「分かりました…」
arudoは闇に溶け込む様に消えていった…。
「まだ、目が覚めないのか…?」
「はい…、今日で3日目なんですが…」
魔物の襲撃が終わり、レオンとアリシアは愚者皇を探しに廃墟と化した町を探していた。
愚者皇は広場で見つかったが、ズタボロの状態でぐったりと意識がなかった。レオンは応急処置を施し、彼を担いでドルフ帝国首都まで連れて行く事にした。道中は険しい山道で思った以上に困難を極めたが、首都までの間にある町や村は存在してなかった。
唯一幸いといえば、彼がただの人間よりも生命力があると言う事だった。でなければこの様な強行軍は無謀だからだ。
「しかし、アリシアちゃんも寝てないだろ…少し休んだ方がいい…」
「いえ、もう少しだけ…」
そういって眠り続けたままの愚者皇に視線を戻すと、言葉を続けた。
「ずっと苦しそうなんです……悪い夢に苛まれている様で…」
「人ならざるものとなっても…、やはり人という事か…」
「私、愚者さんが可哀想だと思います…」
ぽつりと、彼女が呟いた。
「ずっと…独りだったんだと思います…」
「…どうして、そう思うんだい?」
「初めて会った時、愚者さん…悲しい目をしてました……」
「悲しい目…?」
「分かるんです…。私もそうでしたし…」
「うぅ…ん……」
「おっ、やっと起きた様だな…」
レオンが呟くと、愚者皇が目を覚ました。
「あ〜…身体のあちこちが痛い……」
「ったく、瀕死の重傷を負ってたというのに…呑気な奴だ」
「よかったぁ…、もう目が覚めないかと思いました!!」
「あぁ…?ぐあっ…!!」
突然抱きつかれた際に激痛が全身に走り、愚者皇は顔をしかめる。
「おい…、あちこち痛いんだ…抱きつくのやめろ……」
「あっ、ごめんなさい…!!」
咄嗟に離れるが、やはりズキズキと痛む。
「ぐぁ…やっぱりアイツに出られると身体がボロボロになるな…。指一本動かすのも一苦労だ…」
「アイツ?」
「魔神の一体だよ…。ボロボロになった所で出てきたんでな……余計に痛い…。んで、ここはどこだ…?」
「ここか?ここはドルフ帝国首都だ…。ったく、お前を担いでここまで来るのはかなり疲れた…。それと、アリシアちゃんに礼を言っておくんだな…。3日も寝ずに看病してたんだからな…」
「ありがとう…、いつも世話になってばかりですまない…」
「そ、そんな事ないですよ…。じゃ、じゃあ私食事持ってきますね」
パタパタと慌しい様子で、彼女は部屋を後にした。
「ほれ…、お前さんの武器だろ」
レオンはそう言って、愚者皇に双剣を手渡す。
「牙を模した白銀の双剣…か。お前以外にはとても使いこなせる代物じゃないな…」
「これは…俺に科せられた十字架だ…。誰にも代わる事はできやしない……」
「十字架…か。お前は神の存在を信じるのか…?」
「神がこの世界に存在するなら…。俺みたいな奴はいないさ…」
「なるほどな…。だが、その剣にとってお前は大切な者みたいだな…」
「何故、そう思うんだ…」
「何となく…さ。その剣はお前と共に在る事を望んでいる、俺にはそう見えただけだけだ…」
「……………」
「私は少し、薬の買出しをしてくる…。何せお前の怪我の治療をするには足りないからな…」
そう言って、レオンは部屋を後にした。
「しかし…」
黒い月の魔神は破壊と殺戮を望む魔神。俺の身体能力を限界以上に伸ばしてくれるが…、その反動はかなり重い。加えて奴自身が出てくるから敵味方の区別すら付かない…。
そう、目の前に存在する行ける者が無くなるまで俺の肉体は酷使される…。
死ぬまで戦い続ける狂戦士の如く…。
「あの時…、あいつがあの場所にいなくて良かった……ん?」
(何故、俺はあの娘の心配を…?)
愚者皇はそう考えると、頭を軽く振る。
(あの娘は俺とは違ってただの人間だ…。だが、自分と同じと言ってた…何故だ?)
彼女の独白の時、実は起きていた。そして、彼女の言葉をずっと聴いていた。
(俺が…悲しい目をしてた…?独りだった…?)
確かにガルド・ギラム・ゴランを失った俺は独りにはなったのは確かだ…。だが、彼女が言ってるのはその事ではない。しかし、それが何なのか彼にはわからなかった。