作:邪神王ウロボロス
暗黒魔界、上層部・・・
玉座に腰据える者がいた。
しかし、その者は何かが足りぬと考えていた。
男「・・・(何かが足りぬ・・)」
スラっとした細身の体、大きなマント、口元からは鋭い牙、この者の名はテオ・テスカトル。
足を前で組んで両腕をサイドの玉座の肘掛に置いている。
彼は暗黒魔界上層部は一角、グラネレス魔国の領主、テオ・テスカトル公爵である。
彼は本来、吸血魔族の一人でしか無かったのだが、己の実力で魔王の地位まで上りつめてきたという過去があった。
魔王、その地位につく事で、頂天まで上り詰めたと、己の中で自負してしまっていたが、そこは、まだ、暗黒魔界の上層部のほんの一角でしか無いという事に満足できていなかったのであった。
テオ「・・・(気にいらん・・)」
テオは玉座からすっと腰を上げた。
そして、何を考えているのでもなく、前へと歩きだしたのであった。
気付けば、居城からも出て、ひたすら前へと前進していた。
テオは足を止め、辺りの風景を見回した。
テオ「・・・(ここは・・あまりにも退屈すぎた)」
テオは再び前進しはじめたが、しばらく進むとスッと姿を消した。
テオの消えた付近には寂しく魔界の風が吹いていた・・
ヒューーー・・・
ヒューーー・・・
ゴロゴロ・・・
ゴロゴロ・・ピシャッ!・・・ズドガーンッ!!・・ガラガラゴロゴロ・・
カッ!・・・・ゴロゴロゴロ・・・
空にはの厚い暗雲で覆われ稲光が所々と走っている。
時折、小さな稲妻が走ったと思うと、大きな雷鳴の轟きとともに雷が地面のあちこちへと落ちていた。
暗黒瘴気の濃度もまた、上層部とはうってかわって濃く霧状に宙を漂っていた。
その奥地には大きな古城がある。
そして、一人の男がその古城へと足を向け前へと進んでいた。
その男はテオであった。
テオ「・・・(二層目・・あの古城もまた試練・・)」
進むテオの前に魔物の群が現れる。
知能の低い魔物の群はテオに容赦無く襲い掛かった。
だが、テオは全ての動きを見切っていたので、全て紙一重で軽く避けていた。
テオ「この私は仮にも魔王ぞ・・雑魚めが・・手荒い歓迎だな。」
クワッ!!とテオが目を見開くと瞬く間に魔物達は宙で破裂したのであった。
ボンッ!ボンッ!ボンッ!パンッ!パンッ!ボンッ!
そして、テオは再び古城に向って歩きだした。
古城に辿りつくまでにかなりの魔物の群に道を阻まれつつ、その全てを薙ぎ払い、テオは古城へと辿り着いていた。
テオもさすがに息が乱れていた。
さすがに古城に近づけば近づくほどに魔物の強さも格段に増してきていた。
いかに、上層界で魔王の地位を得ていたとしても、二層目ではそのレベルの違いが格段の差があったのであった。
上層界の魔物達は魔王の地位の者に対して格下であったため、魔王に対しては逆らわず、従えていた。
力ある者に力無き者が従える絶対服従の世界、それこそが唯一の生存方法であり、弱肉強食の世界でもあった。
テオ「・・はぁ・・はぁ・・(ここでは私でさえも・・魔物の一員でしか無いというのか・・)」
テオは自らの無力さにがっくりときていた。
テオ「・・はぁ・・はぁ・・(このままでは、この古城に入ったとしても無駄に殺されに行くだけですね・・)」
テオは今の現状、そして現実を受け入れるしか無かった。
だが、テオの目の瞳には何かたぎるものが芽生えていた。
テオ「・・(久々に沸いてきましたよ、この感覚・・懐かしいです)」
テオは古城に入るのをやめ、足を別の進路へと向けたのであった。
そして、テオの姿は暗黒魔界の奥地へと消えていった。
テオが暗黒魔界第二界層の奥地に消えて、数十年の年月が経過していた。
そして、一人の男が再び古城の前に立っていた。
男の風貌はかなりすさんでいる。
ぼろぼろのマント、服装は乱れている。
しかし、何かが違った。
暗闇の中、男の顔はよくうかがう事はできないが異様な魔気が辺りに伝わっており、近辺に潜む魔物達は、ただ、おびえていた。
魔界の暗闇を僅かに照らした、古城の門につるされた灯りが男の顔を照らした。
そして、男の眼は威圧感を出しつつ、静かに赤く輝いたかのように思えた。
口もとからは伸びた牙が灯りに照らされあらわとなっている。
風貌はかなり変わったかのように思えたが、男はテオであった。
あれから数十年・・・この男はいったい何をしていたのか。
テオはにやりと軽く微笑みを浮かべている。
テオ「ふっふっふっ・・この古城・・・我が出発の地であり、我が通過点・・・もはや、ここもちいさく感じますね。」
テオは古城の内部へとゆっくりと足を進めた。
古城の内部では、外とはうって変わって、強い魔物がいるはずなのであったが、おびえている。
テオ「ここの魔物達もよく、理解しているようですね(ニヤリ」
テオはその古城の一番上にある大広間の扉の前に立っていた。
ギギィ〜〜・・
扉をゆっくりと開けて、中へと入っていった。
その広間の中には外とはうってかわって冷気が漂っていた。
壁・天井・柱・・・・すべて凍りついている。
そこにある空気もまた、凍りついていた。
テオの吐息が白く吐きだされている。
そして、テオはゆっくりと、その奥へと足を進めた。
奥には誰かが待ち構えていたが如く、そこにはいた。
凍りついた玉座に腰をすえ、静かな瞳でテオを見つめていた。
テオもまた、静かにその者を見つめた。
その者の容姿はスラッと細く、顔は美形であり、髪色は白いように見えるが、よく見ると凍っているのがうかがえた。
玉座の横には一本の剣がたてられている。
どうやら、武器も使うようである。
玉座に座る者「・・最近、どうも外が騒がしいと思っておりましたが、そういう事でしたか。」
すべてを見透かしたような口ぶりであった。
冷たいまなざしでテオを見ている。
テオ「私の名はテオ・テスカトル、この暗黒魔界のここより上へ位置する上層部で一つの国を支配しておりました。」
テオは礼儀をわきまえて、軽く自己紹介をした。
玉座に座る者「私の名はエルハザード、氷魔帝とも呼ばれております。それより、貴方は何故ここへ来たのですか?」
エルハザードはテオに問いかけた。
エルハザードには隙が無い。
初対面とはいえ、隙を見せずに、冷たい視線でテオを見ている。
まるで、いつでもお前など殺してしまえるのだぞと、威嚇しているが如くであった。
しかし、テオは落ち着いていた。
テオ「いえ、ただの力試しですよ、これより最下層へ向かうにあたっての準備っとでも言いましょうか。」
エルハザードの目つきが微妙に変わった。
テオの発言は、まるでエルハザードを眼中に置いていなかった発言であったので、エルハザードも少しキレ気味になったようでもあった。
エルハザード「哀れな・・無意味ですね。」
エルハザードの身も心も凍りつかせる凍てつく波動が辺りに大きく広がった。
戦闘はもうすでに始まっていた。
両者は互いに動かない。
エルハザードの凍てつく波動にテオはまったく動じていなかった。
テオ「この程度ですか・・・氷魔帝・・ただのあだ名ですね。」
エルハザードの吐息が鋭い氷の槍のようになり、テオを襲った。
テオの口元からはほのかな薄ら笑いが見えた。
幾百もの氷の槍がテオに向かっていた。
だが、テオの目前でそれはピタッと停止した。
エルハザード「何?・・」
そして、それは全部床へと落ちていった。
パシンパリンピシャン!
テオ「貴方の手品には興味ありません。もっと本気を出してください。」
テオの言葉はエルハザードをかなり挑発していた。
エルハザード「そうでしたね、貴方も魔王の位置にいましたね、敬意をはらって本気で殺してあげましょう。」
物凄い波動が辺りに広がり、辺りの空間が歪みだしていた。
エルハザードは玉座の横に立てていた険を握った。
それを見たテオは軽くほほ笑んだ。
テオ「なんとも無様な、たかが上層界の一魔王に対して武器を持たねば勝てぬと思うところ、情けない、この暗黒魔界にそのような者は必要無いでしょう、消えてしまいなさい・・・・」
その発言など無視してエルハザードは険を振り上げた。
エルハザード「この氷魔剣クレアランスは私の体も一身同体、体の一部と言って過言ではありません。」
エルハザードの凍てつく波動、そして、氷属性の魔力が魔剣に集中してきた。
そして、次の一瞬、目にも止らぬ速さで振り下ろされた。
刀身はテオには届いてはいないが、そこから凄まじい凍気の一閃がテオに向かったのであった。
テオはニヤリと微笑み、目を閉じた。
そして、一閃が目前に迫った瞬間に目を開け、魔の吐息を放ったのであった。
エルハザードには一閃がテオに命中したかのように見えた。
エルハザード「弱い者ほどよく吠える、所詮は上層界の魔王、ここでは雑魚そのものでしたね。」
しかし、異変がおきていた。
目前には氷の彫刻のようになったテオ。
エルハザードは玉座に再び腰を据えた。
そして、エルハザードが剣を再び玉座の横にたてようとしたときであった。
魔剣の剣先が地面に触れると、魔剣の刀身にヒビがピリピリと入り出したのであった。
そして、ボロボロと砕けはじめたのである。
それは徐々に加速していき、あっという間に魔剣は粉々に粉砕してしまった。
エルハザードはまったくそれさえも気付いていなかった。
エルハザードの剣を握っていた腕にもヒビが入り始めた。
魔剣同様にぼろぼろと粉砕しはじめている。
顔にもヒビがピリピリと入ってきている。
不思議な事にエルハザードは一切気づいていなかった。
そして、エルハザードは気づく事も無く、次の一瞬で粉砕してしまった。
そして、後に残されたのは粉々に砕けた無残なエルハザードの残骸だけであった。
一方、氷の象となっていたテオは完全に溶けていた。
テオ「己が既に死んでいた事にも気付かないとは、己の力を過信しすぎたせいですよ、無様ですね。あだ名とはいえ、魔帝を付けるとは怖れ多いですよ、私が代って処分させていただきました。」
そして、テオはそこを後にして、更なる下層界へと向かおうとしたときであった。
その場の空間が歪み、今まで感じた事も出会った事も無い恐ろしい波動を感じたのであった。
そして、そこには空間のよどみが生じたのであった。
声『我は邪神王、ウロボロスである。』
邪神王の声がそのよどみから聞こえたのであった。
テオは動けない。
邪神王『何を望む?テオ・テスカトルよ、貴様はもはや、最下層へ来るまでもなく、強さに目覚めている。』
邪神王はテオに問うた。
テオ「お初にお目にかかります、邪神王様、私はただ、クルト様に会いたいだけでございます。」
再び、邪神王の声が空間のよどみから聞こえてきた。
邪神王『ならば、地上へ行け、そこに奴はいる、そして、貴様には魔皇の格付けを授けよう。』
テオ「邪神王様、魔皇の格付けなのか地位なのかわかりませぬが、私はそれはいりません。」
テオは断ったのであった。
テオ「私はただ、あのお方に会いたいだけでございます。」
邪神王『ふはははは、面白い、断るとはな、だが、しかし、貴様は既に魔皇の格付けまでに自力で上がってしまっているのだぞ、今更、弱くなる事はできない。』
テオ「それはそうですね。」
邪神王『貴様は既に、最下層を分断して支配下におき君臨している大魔王達を遙かに上まってしまっている、それは魔皇以外の何者でも無い。』
テオ「ありがたきお言葉、勿体のうございます、ですが、私は魔王という聞こえが気にいってございます。」
邪神王『貴様がどう名乗ろうと勝手だ、だが、もう魔皇である事には変わり無い、好きにすればよかろう、さあ、地上へ行くがよい。』
そして、空間のよどみは消えていった。
テオ「では、魔王というあだ名という事にしておきますね。」
そして、テオは地上へと向かったのであった。