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第110話:支配者に捧げる狂詩曲(1)

作:愚者皇さん


-From 109-
「こんばんわ…。まだ生きていたとは、なかなかにしぶとい…」

空に浮かぶ紅い月を背に佇む吸血鬼の男
その背後には千を超える屍鬼の群れ…
大軍を前にヴァレリアとセレンは怯む様子も無く対峙する。

「…それに関してはお互い様だな」
「どれほど死者を冒涜すれば気がすむのですか…!!」
「所詮は我等に搾取されるだけの存在…。ならば、我等の手駒として使ってやったほうが幸せというものでしょう?それに…」

セレンに軽く視線を移し、歓喜にも似た笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「短生種風情が、我等に勝てる道理は無い…」
「ふざけないでください!!」

セレンは怒りの表情を浮かべ、白銀の槍を構える。それと同時に、ヴァレリアもトゥレイドファングを召喚する。

「今宵はこんなにも月が綺麗だ…。だから、全力で貴方がたを殺してあげましょう…」

ザッと腕を振り下ろす。と同時に、今まで沈黙を守っていた屍鬼達が一斉に彼等に向かって襲い掛かってきた。


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時は遡る事、6時間前… ゼノス 街外れの森

side ヴァレリア

セレンより街外れの森まで一人で来るように言われ、その通りにやってきた。
彼女は俺が着いて10分程経ってから、待ち合わせの場所にやってくる。
その表情は、いつか見た敵意を含んだものだった。が、その中に困惑した様な感じも見受けられる。

「やれやれ…、肝心のアイツは寝ているから誰も止めに来る奴はいないな…」
「……………」
「それで、いつかの決着をつけようってのか?」
「それについては、もういいです…」
「…?」
「貴方が背に背負っているその剣です…」

そういって、セレンは俺の背にある巨剣を指差す。

「これがどうかしたのか?」
「聖剣グランケルベロス…。かつての魔大戦で失われた聖遺物の一つを何故貴方が持っているのですか!?」
「…祖国アラニアの城に眠っていた」
「そんな馬鹿な…。だって、アラニアは跡形も無く消滅したと聞いています…」
「何でだろうな…それは俺にも分からない。ただ、俺が自分の“名前”を思い出した時にその場所も思い出してね…。行ってみたら、国の廃墟があった…」
「しかし、私達が貴方がた二人を見つけた時には荒野で倒れていましたが…」
「それはレオンに聞いた。だから俺自身も正直信じられないでいる…。あの城で起こった事が夢だったのではないのかと…」
「……………」

沈黙が辺りを支配する。と、同時に忘れる事の無い殺気を感じ取る。

「やれやれ…、おちおち長話もできやしないな」
「えっ?」
「悪趣味な奴だ…上から覗き見とは感心しないな。それとも、化け物にはその辺の礼儀ってのが欠如してるのか?」

そういって空を見上げる。セレンもそれに続いてその方向を見やる。
そこには、オルハの姿があった…。


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オルハの襲撃により、ゼノスの街は惨劇に包まれた。
次々と押し寄せる屍鬼の群れに住人達は成す術無く蹂躙されていく…。
それは、拓ノ心やレオン達の元にもやってきた。

「くっ…!!なんて数でござる」
「またコイツ等か!!」
「聖霊よ…光の刃となりて敵を討て!! 光斬撃(ロウ・ブレイド)」

クレインの呪文が発動し、無数の光の刃が撃ち出される。光の刃は屍鬼達を切り裂き、浄化していく。

「ほぅ、中々の腕前でござるな」

別の屍鬼を斬鉄剣で切り伏せながら、拓ノ心が感嘆の声を漏らす。

「ありがとうございます…。ですが、この数では…」
「確かに…クレイン殿の魔法があっても、これだけの数は…」

宿から脱出する際に倒した数は20は超える。だが、一向に減る気配は見せない。それどころか増えている節すら思える。

「仕方あるまい…。すまないが、少し下がってるでござる」
「おい、何をするつもりだ…!?」
「はぁっ………!!」

拓ノ心が斬鉄剣を上段に構え、意識を集中させる。構えた斬鉄剣の刀身に紅蓮の炎が纏い始める。

「奥義…紅蓮葬送撃!!」

気合と込めた叫びと共に斬鉄剣を振り下ろす。
振り下ろされた直後、地面から轟音を上げながら無数の火柱が巻き起こって屍鬼達を焼き払う。
轟音と火柱が収まった後、辺りには肉の焼けた臭いと煙が充満していた。

「ははは、派手にやりすぎたでござるな…」
「…俺等まで死ぬかと思ったぞ」

苦笑を浮かべながら呟く拓ノ心の言葉に、レオンが呆れ気味に反論する。

「さて、二人を探しに行くでござ…ん!?」
「…どうかしたんですか?」
「すまないが…3人は先に行くでござる…」
「何だって…?」
「早く行くでござる!!」

ただならぬ様子に、3人は黙って彼の言葉通りに先へと進む。
彼等が行ったのを確認してから、すっと背後を振り向く。そこには、黒い甲冑に身を包んだ吸血鬼の男が立っていた。

「ほほぅ…我の気配に気づくとは、只者ではないな…」
「拙者とて武術を志す者。お主の殺気に気づく程度ぐらいはどうという事ではない…」
「流石はヤマトの戦士。実に興味深い…」

男はさも嬉しそうに呟く。それに大して、拓ノ心は黙ったまま男を睨みつける。

「名を聞かせてもらおうか…ヤマトの戦士よ」
「拓ノ心…」
「我が名はネロス…ネロス=レファード。誇り高きレファード家の当主にして、オルハ卿の忠実なる騎士…」

ざっ…と、赤い西洋剣を呼び出して構える。それに続くように、斬鉄剣の切っ先を向けるように構える。

「では始めよう…。我々の戦いを…誇り高き戦士達の宴を」

ここに戦士達の戦いが始まる…。


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「ぜあぁぁぁっ!!」
「はあぁぁぁっ!!」

ヴァレリアの黒い双剣が胴体を両断し、セレンの槍が幾つもの穴を穿つ。
二人は怒涛の勢いで屍鬼の群れを蹴散らしていく。黒い旋風が吹き荒れ、白い閃光が煌く度に、討つべき敵であるオルハへの道を刻み込んでいく。
とめどなく溢れる汚水の如く飲み込まんとする屍鬼達の勢いは納まる事はない。だが、決して前に進む事を諦めない。

「どうしました?私の手駒はまだまだいますよ」

余裕の笑みを見せたまま、オルハは呟く。

「少し…時間を稼いでくれませんか?」
「…何か手があるんだな」
「はい…」

ヴァレリアが尋ねると、セレンは小さく頷きながら答える。

「どれ位だ?」
「10秒程…」
「了解した…。その10秒もの間、お前を全力で守ってやる」
「ありがとう…」

そういって彼女は大きく後退し、詠唱に入った。

「闇は光を喰らい、絶望は希望を呑み込み、死は生を蝕む…。汝は罪を恐れ、汝は罪を逃れ、汝は罪を犯す…」
「その呪文は…!!」

セレンの言葉に呼応して、周囲に白い魔力の渦が湧き上がる。と同時に、オルハの表情が驚愕のものに変わる。

「故に汝は傷つけ、故に汝は壊し、故に汝は奪う…。故に、我はここに汝が犯した罪を刻もう」
「汝が傷つけたのなら我が癒そう、汝が壊したのなら我が直そう、汝が奪ったのなら我が取り戻そう…。汝は恐れる事無かれ。汝が犯した罪は我が赦す。されば我に乞い、我に求め、我に委ねよ」
「小娘がぁぁぁぁ!!」
「させるかぁ!!」

オルハが怒声にも似た叫び声を上げて、セレンに襲い掛かろうとする。が、ヴァレリアの一撃によって阻まれる。

「言ったはずだぜ。全力で守るってな…!!」
「貴様…!!」
「汝の罪は死によって贖われ、汝の魂は無へと帰する…。 還魂洗礼(リィンカーネイション)」

最後の一小節を踏んだ直後、オルハと屍鬼達を囲むように巨大な光の陣が編み上げられる。陣の中で白い光の雪が降り、雪に触れた屍鬼達の身体が少しずつ壊れていく。
そして、陣の光が一際強く輝いて視界を白く染め上げる。光がおさまった後、そこには酷く焼け爛れた姿に変わり果てたオルハだけがいた。

「おのれ…短生種の分際で……」

忌々しげに、憎しみを込めた表情を浮かべながら睨みつける。
が使ったのは、光属性最高位と言われる魔術の一つ。
その効果は屍鬼などのアンデッドを消滅させるが、オルハの様に力の強い者は消滅にまでは至らない。しかし、彼等の持つ力を大きく削ぐ事ができる為、結果としてこの魔術の発動は無駄ではない。

「くっ…」

大魔法を発動させた影響か、セレンががくりと膝を崩して倒れこむ。
恐らく、これ以上の戦闘は不可能だろう。

「さて…」

トゥレイドファングを戻し、背に背負った巨剣を構える。オルハは焼け爛れた皮膚を再生させ、全身に炎を纏っている。

「これで余計な野次馬共はいなくなった…。決着をつけるのに余計な観客はいらない。それに、これで“小細工”はできないだろ」
「ふん…。貴様如きに、もはや小細工は必要ない。この手で八つ裂きにし、灰燼に帰してあげよう」

魔人と魔人、3度目にして最後の戦いの火蓋が切って落とされた

-To 時空の流人@-

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