作:愚者皇さん
「まったく、無茶もいい所だな…。あんな身体で戦うとは…」
「そうなのか…?」
「そうなのか…?なんてものじゃない…。アリシアちゃんが呼びに来るのが遅かったら、いくらお前でもやばかったぞ」
「ん?、まるで俺を知ってる口ぶりだな…」
「邪神教団隊長、愚者皇…。数多の魔獣を従え、幾多もの戦場を蹂躙した魔剣士…だろ」
「…知ってたか。んで、ここで殺すのか?」
「いや、病人を殺す程…私は落ちぶれては無いのでね」
「ふぅん…」
医者の男は手馴れた様子で簡易医療道具を片付ける。
「まぁ、応急処置は施した…後は寝てれば勝手に傷を治るのだろ」
「まぁ…な」
「レオンさん、どうでした…?」
心配そうな表情をしながら、アリシアと呼ばれた少女が入ってくる。
「おぉアリシアちゃんか…、一応処置は施したから大丈夫だよ」
「そうですか…ありがとうございます。ところで治療代は…」
「いや、それはいらないよ…あくまで善意でやってる事だからね」
レオンと呼ばれた医師は柔らかな笑みを浮かべながら答える。
「それよりも…、ここはそろそろ危険だ…。邪神教団と帝國軍の戦いがそろそろ始まるからね…」
「んじゃ、俺はここでおさらばした方がいいみたいだな…」
愚者皇はそういってベッドから起き上がる。
「やれやれ…、その身体で追手を振り切れると思ってるのか?それは君が一番知ってる筈だ…」
「…ったく、全部お見通しって訳か」
「そういうわけだ…君も私の住んでる街へ来て貰うよ。アリシアちゃんもそれでいいね」
「はい…」
彼女はこくりとうなずく。
「それじゃあ決まりだ…」
「それで…、アンタが住んでる街はどこにあるんだ?」
「クレインという街だ。ドルフ帝國領の東にある。ここからだと2日程だな…」
「んで、よくここまで来れたものだな…」
「あぁ、あくまで故郷…なんでね。今はここから半日程行った村に住んでるが…流石にあそこも危険だろうからね」
その日の夜、3人はクレインの街へ向けて出立した。
ドルフ帝國領の国境
「どういう事だ!?」
レオンが国境の番兵に怒鳴り散らしている。
「だから通せない者は通せない…悪いが諦めてくれ」
「どうしたんだ?」
「あぁ、国境を閉鎖してるらしくてな…」
愚者皇がやってくるとレオンは忌々しげに呟いた。
「…ここを通らないといけないのか?」
「いや、ここを通らなくとも行けはするが…。今はあちこちで戦闘が起こってるからな…、安全にいくならここを通るしかないんだよ」
「わかった…」
そういってアリシアを担ぎ上げる。
「ふぇ…!?あ、あの…?」
「よっと…」
さらにもう片方でレオンを担ぎ上げる。
「な、何をするつもりだ?」
「正面から通れないなら…飛べばいいだけだ」
「んな、馬鹿なこt…どわっ」
次の瞬間、愚者皇は二人を担ぎ上げて国境の鉄門に向かって跳躍する。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
アリシアの悲鳴が木霊しながら、愚者皇は鉄門を飛び越えた。
「これでいいだろ?」
「は、はわわわ…」
「な…なんて無茶苦茶な奴だ…」
降ろされた二人は各々違った反応を見せていた。だが、
「……………」
番兵は開いた口が閉じないまま唖然としていた。
「さてと…、無茶したせいで少し疲れたな…ここから近い街はあるのか?」
「ここからなら、ドルフ帝國の首都が近いな」
ぱんぱんと埃を払いながら立ち上がり、レオンが答える
「あ…あの……」
「ん?」
「腰が抜けて……」
どうやら、先ほどの跳躍に驚いて立てなくなってしまったらしい。
「……………」
無言のまま、愚者皇が彼女を抱え上げる。
「あ、あの…」
「助けてもらった礼だ…。これぐらいはさせてくれ」
「ふぅ…君は自分がしている事がどういう事か気づいてないみたいだな」
「何か言ったか…?」
「いや…別に」
3人はドルフ帝國の首都へ一路向かう事となった…。
その3人を影から見つめる1つの影…。
「……これはarubo様に報告せねば」
影はそう呟いて、姿を消した…。
愚者皇に忍び寄る2つの脅威…。彼がその脅威が迫っている事にまだ気づいていない…。